2005年11月10日

Faceless token.15-1



Faceless token.十五話、前半1/3ほどです。
リライトしていない草稿ですので、大幅に書き直す場合があります。ご容赦を。









   Faceless token.     15 / Competence T









 俺はセイバーを連れたまま、坂を上り切った先にある武家屋敷に、
 つまりは慣れ親しんだ我が家を目指して歩いて、それから程なく到着した。

 無駄にでかい門に阻まれて分かり難いが、居間の灯りが点いている。
 試しに玄関扉に手をかけると、抵抗なくガラガラと横にずれた。
 もちろん戸締りを忘れた訳ではなく、これは家の鍵を持つ人物が中にいるという証しである。

 中に入ると、玄関には見慣れた桜のローファーの靴があった。
 時間も時間だし、部活が終わって帰って来ていても不思議はない。

 問題は次だ。
 此処にある筈ない女物の靴がもう一足、鎮座していた。
 それを見て、やっぱりか、という諦め。
 頭を抱える。
 誰の物か、俺はだいたい理解していた。

 ―――で。
 廊下を渡り、居間に入ると、その人物が俺を出迎えた。



「あら、士郎。随分と遅かったじゃない」



「…………」


 言葉もない。
 リビングにはまるで自分の家のように寛ぐ遠坂がいた。
 彼女は足を伸ばし、剥き掛けの蜜柑を手のひらで転がしている。
 何処から探してきたものか、置かれた湯呑みからは湯気まで立っていた。
 図々しいというか、その豪胆さがいっそ、清々しいぐらいだ。



「おまえなあ……」


 まさかと思った事が当たってしまい、
 かといって、予想的中に俺が喜べる筈もなく、ただただ呆れる。
 と。

 どさり。

 すぐ横で何かが落ちる音がした。
 反射的に目で追い、それが満載の食料品が詰まった袋であると気づく。
 ぎりぎりと首を曲げて横を見た。

 桜。

 俺にとっては妹的存在で、男所帯甚だしい我が家における一服の清涼剤。
 その彼女が隣にいる。
 見ると、桜は着替えてもおらず、俺と同じような姿勢で固まっていた。
 帰ってきたばかりなのだろう。
 タッチの差だったみたいだ。
 それが良かったのか、悪かったのか―――いや、たぶん悪い。


「先輩……あの、これはどういう……」


 桜が怯えを含んだ声で俺に訴えかけてくる。


 ……さて、困った。
 問い詰められるが、答えようがない。
 家主である俺が留守中、なぜか遠坂さんが家で寛いでいる。
 桜が納得できるような答えを捻り出すのは不可能に近い。
 だからといって、無言は尚更拙いだろう。

「そ、それは―――」

 と、そこで元凶が無責任が口を挟んだ。



「士郎、べつにいいんじゃない? 教えてあげたら?」


 無茶、言うなよ。
 むしろ俺のほうが教えて欲しいぐらいだっていうのに……!
 ぜったい楽しんでるだろ、アイツ。


「……衛宮先輩を呼び捨てですか……?」

「―――っ」

 遠坂の台詞の中で、俺が空気のように感じていて気づかなかったこと。
 しかし、第三者から見れば意味深な、そんな部分を抜き出し、桜は遠坂に目を向けた。


「あら、よくそこに気が付いたわね。
 だったら、その意味もわかるでしょ、間桐さん?」


 ……意味ってなにさ。
 下僕とかは勘弁して欲しい。

 二人は俺を無視して、何とも言えない緊張感でお互いを観察している。
 と、とにかく、何か話さねば……!


「えっと……これは、だな。話すと長くなるんだけど―――」


 が。


「シロウ、どうかしましたか?」


 と、このタイミングでもう一人が居間に顔を出した。
 ……そう。セイバーさんです。
 正直言って、彼女がいたことも忘れてました。



「…………!!」


 桜の顔に驚愕の表情が浮かび、声も出せずに絶句していた。
 無理も無い。
 俺たちの生活にとことん縁がなかった、金髪の異邦人さんの登場である。



「ああ、凛。シロウが言った通り、此処にいたのですね」


 悪気は無いのだろうが、俺の肩に手を乗せて、セイバーはそんな煽るようなことを言う。
 何となく咄嗟に、俺はセイバーを背に隠した。
 ―――それが悪かった。


「うっ……」


 セイバーを二人の視線から庇うように後ろに引いたため、
 俺は意図せず、三対の少女の目がぶつかり合う地点に立ち尽くす状態になった。

 俺、なんか悪いコトしましたか?

 不思議な均衡が成立して、そのまま凍り付いたような静寂が続く。



「………」

「………」

「……?」



 事情をよく呑み込めないのか、セイバーはきょとんとしていた。
 桜は驚愕だか何だか、たぶん自分でもよくわかってない感情の波に圧され、唖然と。
 遠坂はニヤニヤしている。

 本当はもう一人いて、たぶん俺の頭上あたりに隠れ潜んで俺を見ているだろう。
 しかし、こういったことには知らぬ存ぜぬのヤツなので、役に立たない。
 ―――出てこられても困るが。







「はあ……仕方ないわね。私から説明してあげる」


 沈黙の中、見つめ合うのにも飽きた遠坂が、気だるそうに立ち上がり、口を開いた。
 当然だろう。
 この中で全ての事情を把握しているのは遠坂だけなのだ。
 きちんと説明してくれることを期待する。

 ……が、甘かった。

 魔女の正体は、赤いあくまだったのです。



 カチッ。

「―――?」

 遠坂はテーブルに小さな金属片を置いた。

「これが何か、わかる?」

「なに……って、カギ……?」

「そ、この家の合鍵」

 目を凝らす。
 間違いない。
 あれは朝、ハサンに渡した筈の、この家の合鍵である。
 それが何故か、遠坂の手にあって、今はテーブルの上にある。


「それが、どうかしましたか?」

 俺の気持ちを代弁するが如く、桜が言った。
 遠坂はフフンと笑う。


「鈍いわねえ、桜。
 男が女に自分の家の鍵を渡す。
 ねんねじゃあるまいし、これがどういうことか、わかるでしょ?
 つまり、私と士郎は、そーゆー親密な関係ってこと」


「な――――――!」



 初耳だ。
 というか、完全な嘘である。

 そもそも遠坂が手にしている合鍵は、ハサンに渡したものであろう。
 しかし、それを桜にわかってもらうには、サーヴァントであるハサンの紹介を、
 しいては、聖杯戦争についての説明が必要になってくるため、簡単に話せないのが恨めしい。



「違うぞ、桜! これは――――――ぬおっ????!!!」


 否定しようとしたら、台詞の途中で言葉が途切れてしまう。
 何時の間にか背後にまわった遠坂が、後ろから腕を伸ばしていた。
 そして、自分の体を擦り付けるようにして、俺を抱き締める。
 慎ましながらも自己主張する双丘の感触に、俺の理性は飛びそうになった。


「なっ、ななな、な、なにを……!」

「あら、いいじゃない。どうせ、いつも<・・・>してることなんだから」


 誓って、嘘だ。
 いつもって、いつだよ。

 だいたい、昨日、「ぎったんぎったんにしてやる」とか言ったのは、遠坂じゃないのか?
 まさか、コレがそうなのか?
 たしかに魂魄に受けたダメージは、天に召されそうになるぐらい強烈な仕打ちだ。



「ふふ、耳まで真っ赤にしちゃって……、照れてる士郎もカワイイわね。
 せっかくだから、私たちの仲、皆に見せつけてやりましょ」

「ちょっ、おま ―――――― !!」


 ……いかん、クラクラしてきた。
 遠坂が喋る度に、熱く湿った息が、俺の首筋、顔半面にかかり、脳が融けそうになる。



「凛。少々やり過ぎなのでは……?」


 お。
 静かだったセイバーがずいっと前に出て、己のマスターに物申す。

 混沌とした居間に金髪の救世主が!!

 しかし、遠坂はさらっと言った。



「いいから、貴女は黙ってなさい。ここで追い出されたら、晩ごはん、抜きよ」

「む―――」



 ……ダメだ。くま子さんは役に立たない。

 言うまでもない事だが、セイバーは遠坂のサーヴァントである。
 その時点で、勝負は戦う前から見えていた。
 一日一緒にいただけの俺でも分かるだから、遠坂がセイバーの弱点を知らない筈がない。
 メシを人質に取られたら、彼女は成す術がないのだ…………たぶん。



 やはり俺が動くしかないようだ。
 本能は惜しいと嘆くが、理性をフル動員して遠坂の体を背中から引き剥がす。

「えっと……、桜っ、さくら!?」

 遠坂の饗宴というか、狂演に石化してた桜に呼びかけた。


「はっ!」


「あいつが言ったこと、信じるなよ。アレは俺たちをからかって遊んでるだけだから」

「ほ、本当ですか?」


 うん。間違いない。

 桜の頬に生気が戻ってくる。
 が、


「ふーん、そんなコト言うんだ……。ま、信じる、信じないは、勝手だけどね。
 でも、私の手に合鍵があるのは事実。
 自由に出入りする権利を持っている。
 言ってみれば、この屋敷は私の別荘<セカンドハウス> ―――いえ、愛の巣ってところかしら?」


 まだ言うか、この娘は。
 かわいく同意を求めても、俺は頷かないぞ。


「―――! そ、それなら―――」


 何か思いついて、桜は自分の着衣を弄り始めた。

「んん―――っ」

 何をしているのか、わかった。
 おそらく、張り合うつもりなのだろう。
 鍵が家に自由に出入りする権利証というなら、桜にだって資格はある。
 俺が手ずから渡した正規の合鍵を、桜も持っているのだ。
 しかし、他人の家を別荘などと言い放つ、ジャイアニズム全開な今の遠坂にそれを見せるのは―――



「ありましたっ!」

 桜は合鍵に紐をかけ、首から提げていた。
 遠坂やセイバーには望むべくも無い、乙女の秘密ポケットからそれを取り出し、喜び勇んで掲げた。
 だが、予想通りに、


「あ―――」

 すっと手を伸ばし、遠坂は桜の手から鍵を奪い取った。
 どうして、という悲壮感そのものな桜の顔。


「これはもう、貴女には必要ないモノね。セイバーにでも上げましょうか」

「……セイバー……?」

「そ、あの子の名前。私の連れ。なにか文句ある?」

「………………いえ」

 桜は俯き、口を閉ざしてしまう。


「じゃ、そういうことだから。
 今まで士郎の世話をしていたみたいだけど、もう来なくていいわよ。
 はっきり言って用済み。おつかれさま」

 と、遠坂は容赦なく追い立てた。



「いいかげんしろよ、遠坂。どういうつもりだ?」

 成り行きを見守っていたが、さすがに今のは看破出来ない。
 冗談にしても、大概、酷すぎる。
 俺を弄るならともかく、桜にあたるのは筋違いだろう。
 声を荒上げて、遠坂に迫った。



「どう、って、桜を追い出すつもりに、決まってるじゃない。あんたも協力して」

「そんなコト、できるかよ。なんだって、いきなり―――」

「結果同じなら、早い方がいいでしょ」

「あのなあ―――」

 と、俺たちが言い争いをしてると、不意に、




「………………返して、ください」

「え―――なに?」

「鍵を返してくださいっ!」

 小さな声で、しかしはっきりと桜が主張した。
 敵意というか、妥協しない対抗心といったものが語調に滲んでいる。
 遠坂は目を見開き、驚きの表情をしていた。
 もちろん、俺も。


「ダメよ、鍵は返さない。家に来られても迷惑だし、来ないほうが貴女のためだから」

「納得できません。どうして先輩を巻き込むんですか?」

「そ、そんなこと、貴女には関係ないじゃない」

「関係なくありません。私がいちばん先輩のコトをよく知ってるんです。
 姉さんの方こそ、先輩と何の関係があると言うんですか?」

「……とにかくダメよ。諦めなさい」

「答えられないんですね。だったら、早く鍵を返してください」


 それは驚くべき光景だった。
 例え口であっても争い事を好まない桜が、あろうことか、遠坂に噛みついている。
 そんな桜を見たのは初めてで、なんて言ったものか判断がつかない。

 もっとも、少々桜の勢いに圧され気味だが、遠坂も譲る気はないらしい。
 結果、殺伐としてくる。


「……………………」

 視線を逸らすと、セイバーと目が合った。
 アイコンタクトで情報交換し、互いに手の施しようがないと首を振る。

 どうやって収拾つけたものか ―――




 ―――と、そこへ、救い主は意外なところから現れた。






 がらがらと玄関の横開き戸が開く音がして、


「しーろお―っ、おねえちゃん、おなかすいた―――!」


 能天気な声が屋内に木霊した。








next 15-2
posted by 止水 at 23:40| Comment(3) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白いッス!!
プレッシャーは、かけたく無いッスけど早く続きが読みたい〜。
がんばってください。応援してます。
Posted by mako at 2005年11月26日 02:09
んと、気のせいだったらいいんすけど。
 桜嬢、ナチュラルに凛のこと「姉さん」って呼んじゃってます、ね。感情の高ぶりのままに。これいかに。
 それはさておき、修羅場。ここにハサンが混じったらもっと面白いと思うけれど、そうもいかんか。推定イリヤ顔のロリハサンが現れたりしたら闖入者タイガーの暴走も凄まじいことになりそうだし。
 そういや、ハサンの宝具で蟲をどうにかするSSいくつかあるけど、此方では桜どうなるんだろう? さりげにエミヤが蟲爺か桜のサーヴァントっぽいけど。
Posted by ALORC at 2005年11月26日 20:17
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Posted by adult amatuer women at 2006年10月03日 10:07
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